マッチョだった人が筋トレをやめて細い体になったとしても、元のマッチョボディーに戻るのは比較的簡単です。
これにはマッスルメモリーといわれる記憶が関係しています。
最近までマッスルメモリーの科学的根拠がわかっていませんでしたが、最近の研究からメカニズムが少しずつ解明されてきました。
この記事では文献をもとにマッスルメモリーのメカニズムについて詳しく解説していこうと思います。
この記事を読むと分かること
- マッスルメモリーとは何か
- マッスルメモリーのメカニズム
- マッスルメモリーが起きない人の特徴
- 筋核を増やす方法
マッスルメモリーとは
マッスルメモリー(Muscle memory)とは和訳すると「筋肉記憶」です。
むかし勉強していたことが、今でも思い出せるのと同じように、むかし筋肉隆々だった人の体には筋肉がついていたころの記憶が残されているのです。
筋トレを3年頑張ってムキムキの体を手に入れた人が、何かの理由で筋トレをやめてしまったとします。
1年もすればかなり筋肉はなくなってしまい、2~3年経つと、完全に元の体に戻ってしまいます。
この人がまたムキムキの体に戻るには最初の頃と同じく3年間のトレーニングをしなければいけないのでしょうか?
もちろん答えはNOです。
おそらく1年間筋トレを頑張れば、元のムキムキの体に戻ることができるでしょう。
これはマッスルメモリーのおかげです。
マッスルメモリーが起こるメカニズム
マッスルメモリーは脳の記憶とは全くの別物で、筋肉の細胞核(=筋核)が関係していることが分かっています。
筋核とは
筋核とは「筋細胞中に存在する核」のことを指します。
筋細胞を構成するタンパク質は筋核の中にあるDNAから作られるので、筋肥大したいトレーニーにとって大事な存在です。
しかし筋核が作れるタンパク質の量は限界があるため、一つの筋核だけで筋肉を大きくするのは難しいです。
理科の授業で習ったかもしれませんが、一般的な細胞は一つの細胞につき一つの核しか持っていません。
しかし筋細胞は特殊で一つの細胞内にいくつもの核をもつことができます。
(画像引用元:http://buzzscience.net/archives/2690)
様々な研究で、筋細胞は鍛えられたときに周りに存在する細胞と融合し核の数を増やすことが分かっています。
つまりトレーニングによって、筋核を増やしていけば、それだけタンパク質が作られる量が増え、早く筋肉を大きくすることができるのです。
もっといえば、筋核をたくさん持っている人の方がタンパク質合成が盛んになるので、「筋核をたくさん持っている=筋肥大しやすい」ともいえます。
筋核の寿命
筋核が多ければ多いほど筋肉はたくさん合成されます。
その筋核は筋トレを継続的に行うことで増やすことができると説明しました。
つまり長年筋トレをやってきた人は筋肉を作る能力が高いとも言えます。
これこそがマッスルメモリーが起こる理由になります。
ですがここで一つ疑問が生じると思います。
「筋核の数は減ることはないのか?」と。
ここではラットを対象にした研究結果をご紹介します。[1]
この研究では筋核数の異なるラットを作り出すために、片方のラットにはテストステロンを投薬して、もう片方は通常のラットを用意しています。
そして投薬から11週間後に筋トレを開始させ、筋肉量と筋核数の変化を調査しています。
結果が次の図になります。
この図から、テストステロンを投薬されたラットは筋肉と筋核の両方が増加していることがわかります。
しかしその後筋肉量は減少したものの、筋核数は増えた状態を維持し続けています。
そして筋肉が完全に元に戻ってから8週間後に筋トレをさせると、筋核の多いテストステロン群の筋肉量が著しく増えました。
この研究から2つの大事なことがわかります。
- 一度増えた筋核は長期間減らない
- 筋核が多いほど筋肉は増える
ラットの平均寿命が約2年といわれているので、筋核が維持された期間(11週間)は寿命に対して40%以上になります。
単純に人間で換算すると30年以上も筋核個数が維持できることになります。
また人を対象にした研究では、筋核の平均寿命が15年と報告しています。[2]
ただ結果の解釈によってはもっと寿命が長いとしています。
現段階では、筋核の寿命は15年だと思っておくといいでしょう。
15年間はマッスルメモリーが継続するということです。
マッスルメモリーが起こるメカニズムまとめ
ここで一旦、マッスルメモリーが起こるメカニズムを整理しましょう。
マッスルメモリーのメカニズム
- 筋トレを継続して行うことで筋タンパクを作る筋核が増える
- 一度増えた筋核は15年間維持される
- 筋トレをやめて筋肉が減っても、筋肉を合成する力は衰えていないので筋肉が早くつく
マッスルメモリーが起きない人
マッスルメモリーは筋核の数が関係しているので、少し筋トレをしたことがある程度の人はマッスルメモリーはないと思ったほうがいいです。
筋核を増やすのはそう簡単なことではなく、長い歳月を経て得られるものです。
また最近の研究で、高頻度のトレーニングが筋核を大幅に増やすことが明らかになっています。(筋核を増やすトレーニング方法については記事の最後で紹介します。)
筋トレ経験の短い人や低頻度でトレーニングしてきた人は、残念ながらマッスルメモリーといえるほどの効果はないかもしれません。
【結論】筋核を増やして万が一に備えよう
落ちたはずの筋肉がすぐに元通りになる夢のような「マッスルメモリー」
ただマッスルメモリーはあくまで筋トレをしていた時と同じだけの筋合成ができるということであり、過剰な期待は禁物です。
例えば10年も筋トレから離れていた人が、1~2か月で元通りの体に復活できるわけではありません。
加えてハードなトレーニングも必須です。
「マッスルメモリーがあるからサボっちゃおう」ではなく、「万が一ケガなどでトレーニングできなくなったときのために、トレーニングを頑張ろう」という気持ちでいることが大事です。
まとめ
- マッスルメモリーは脳の記憶ではなく、筋肉の記憶
- 筋トレをやめると筋肉は落ちるが筋核の数は変わらない
- 筋タンパクをつくる筋核が維持されるので、トレーニングを再開すると早く筋肉がつく
▽筋核を増やすことを狙った「筋核オーバートレーニング」については下記記事で詳しく説明しています。
-
毎日同じ部位を筋トレして筋肥大させる方法【筋核オーバートレーニング】
続きを見る
筋トレを頑張って、いざという時のために備えましょう!
それではまた!
参考文献
[1]Muscle memory and a new cellular model for muscle atrophy and hypertrophy
[2]Retrospective Birth Dating of Cells in Humans