筋トレをする一番の目的が「筋肉を大きくすること」という人が多いでしょう。
筋肉が大きくなれば、メリハリのある体になったり、代謝が上がって太りにくくなります。
でもそれだけではありません。
筋トレの方法によっては「筋力向上効果」もあります。
筋肉がつけばその分、筋力が増えると思っている人も多いですが、一概にそうとはいえません。
筋力をつけたいのであれば、筋力を鍛えるトレーニング方法を実践しなければいけないのです。
この記事では、「筋力を強くする方法」を科学的に解説していこうと思います。
この記事を読むと分かること
- 筋肉=筋力ではない
- 筋力を鍛えるためには3つのトレーニングが必要
- 筋力を鍛えるトレーニングメニュー
目次
筋肉が多いほど筋力が強いのか
筋肉隆々な人とガリガリな人を比べて、どちらの筋力が強いでしょうか?と聞けば100人中100人が筋肉隆々な人と答えるでしょう。
このように極端な例を挙げると、「筋肉があるほど、筋力が強い」という関係が成り立ちます。
しかしこれがすべて成り立つわけではありません。
私の友人に「細いのにやたらと腕相撲が強い人」がいます。また日本には「ベンチプレス120kgを挙げる体重50kgの女性」がいます。
この人たちは明らかに少ない筋肉で、強い筋力を発揮しています。
必ずしも「筋肉=筋力」ではないのです。
ある研究報告では筋肉の大きさがもたらす筋力への影響は50%程度しかないとしています。
また筋肉の大きさと筋力にはある程度関係性があるものの、完全な相関はありません。
筋力は筋肉の大きさ以外に神経活動が深くかかわっています。
イメージしやすいように表現すると、
「筋力」=「筋肉の大きさ」×「神経系の発達度合」×「筋繊維組成」
このようになります。
この記事では「神経系を発達させる方法」について詳しく解説していきます。
▽筋肉を大きくする方法や筋繊維組成に関してはこちらの記事を参考にしてください。
筋力アップの方法
筋力を強くするには筋肉を増やすことと並行して、神経系を発達させる必要があります。
神経系を発達させるには次の3つのトレーニングが有効です。
神経系を発達させる方法
- 高重量
- 高頻度
- 高速
「高重量>高頻度>高速」の順番で筋力向上に大切となります。
高重量トレーニング
神経系の発達に欠かせないのが「高重量トレーニング」です。
私たちの筋肉を詳しく見ていくと、一つの神経に対して複数の筋繊維が結びついて「一つの運動単位」ができています。これをモーターユニットといいます。
モーターユニットには必ず一つの神経が存在して、その神経が複数の筋繊維を操っているのです。
筋肉にはたくさんのモーターユニットが存在していて、軽い重量でトレーニングを行うと、一部のモーターユニットだけが運動に参加します。
一方他のモーターユニットは運動には全く参加しません。
このように筋肉を動かすときは、全部のモーターユニットが力を出し合うのではなく、一部のモーターユニットだけが全力を出す構造になっています。
それでは重い重量を扱うとどうなるのでしょうか。
答えは「たくさんのモーターユニットが同時に働く」です。
一部のモーターユニットだけでは重りを持てないときは、サボっているモーターユニットたちも一緒に力を発揮してくれます。
高重量トレーニングは、ばらばらに働くモーターユニットたちを同時に働かせる訓練になるのです。
私たちの体がもっている筋力のうち、自ら発揮できる筋力は70%程度だと言われています。
しかし高重量のトレーニングを続けることで、100%近い筋力を発揮できることもあります。
重量の目安はMAX重量の80~90%です。
正しいフォームを維持できる範囲でなるべく重たい重量を扱いましょう。
高重量トレーニングまとめ
筋力UP目的の高重量トレーニング
- 神経系の発達に高重量は必須
- 重量はMAXの80~90%が目安
高頻度トレーニング
パワーリフターの多くは高頻度のトレーニングを好んで行っています。
ボディビル的には高頻度のトレーニングはオーバートレーニングを引き起こし逆効果になってしまいます。
これは筋肉を限界まで追い込んでいるからです。
高重量トレーニングの場合は、筋肉が疲労する前に、神経系が疲労して、重量を挙げられなくなります。
つまり高重量でトレーニングをする分にはオーバートレーニングになりにくいのです。
ただ関節などに疲労が蓄積されやすいので、ケガに注意する必要があります。
高頻度トレーニングに関するエビデンス
いままで感覚的に高頻度が良いといわれてきましたが、最近の研究で「高頻度トレーニングが筋力向上に役立つ」ことが分かってきました。[1]
2018年に報告されたメタアナリシスでは22の研究をもとにトレーニング頻度と筋力増加の関係を調査しています。
この研究で、多関節運動の場合は頻度が増えると筋力が向上することが明らかになりました。
一方で単関節運動は頻度を増やしても筋力向上に有意な差は見られませんでした。
筋トレ種目の種類
- 単関節運動:アームカールなど一つの関節だけが動く種目
- 多関節運動:ベンチプレスなど2つ以上の関節が動く種目
単関節運動に比べて、多関節運動はより高重量を扱うため、強い筋力が必要になります。
そのため、複数の筋肉を同時に動員する必要があり、これには神経系の発達が必要不可欠です。
それゆえに頻度が高いほど学習頻度が多いので、多関節運動においては、高頻度のトレーニングが重要なのです。
高頻度トレはトレーニングボリュームを増やすことが大切
頻度が高ければ何でもいいわけではありません。
1週間にトレーニングする総負荷量(ボリューム)を増やさないといけません。
トレーニングボリュームは次の計算式であらわされます。
「トレーニングボリューム」=「使用重量」×「レップ数」×「セット数」
例えばベンチプレス100kgを8レップス、3セット行った場合のトレーニングボリュームは「100×8×3=2400kg」となります。
頻度を増やして、その分一回あたりのトレーニングボリュームを減らしてしまうと、1週間のトータルボリュームがほとんど変わらなくなってしまいます。
頻度を変えても1週間のトータルボリュームが一緒だと筋力が増加しないという研究報告も出ています。
筋力を向上させるためにトレーニング頻度を増やすときは、必ず1週間のトータルボリュームが増えるようにプログラムを作りましょう。
またトレーニングボリュームは使用重量を減らすことで、増やすことができます。
例えば100kgのベンチプレスが8回できる人は、60kgなら20回以上できるはずです。
1セットあたりのトレーニングボリュームは800kgと1200kgとなり、ベンチプレス60kgの方が多いことになります。
しかし60kgでベンチプレスをやって筋肉が増えることはあっても、筋力はほとんど向上しません。
筋力向上には「高重量」が必須です。
重量を下げてトレーニングボリュームを増やすのはやめましょう。
高頻度トレーニングまとめ
筋力UP目的の高頻度トレーニング
- 多関節種目は高頻度で鍛えるほど筋力が伸びやすい
- 1週間のトレーニングボリュームを増やすようにプログラムを作る
高速トレーニング
高重量を扱う以外にもたくさんのモーターユニットを動員させる方法があります。
それが「挙上速度を速くする高速トレーニング」です。
ベンチプレスの挙上速度と筋活動について調べた研究を紹介します。[2]
研究内容
- 対象:13名の男性(23±4.0)
- 種目:6RMの重量で行うベンチプレス
- 方法:「ゆっくり」「普通」「速い」の異なる速度で限界まで拳上した時の筋活動を測定する
- 「ゆっくり」は3秒かけておろし、3秒かけて持ち上げます。
- 「普通」は2秒かけておろし、2秒かけて持ち上げます。
- 「速い」は可能な限り素早く下ろして持ち上げます。
各運動スピードにおける平均運動時間と平均レップ数は次のようになりました。
- ゆっくり:24秒、3.7レップス
- 普通:26秒、6レップス
- 速い:20秒、7.9レップス
素早い動作を行うと、レップ数は増えますが、運動時間は短い傾向にあることが分かります。
そして筋活動の結果が次のグラフになります。
縦軸が筋活動で、この数値が高いほど多くの筋繊維が活動に参加していることを表しています。
上記のグラフから、「ゆっくり」と「普通」では筋活動に違いがないことが分かります。
「速い」だけが唯一筋活動レベルが高かったです。
筋活動レベルが高いということは筋繊維が同時に働いているということです。
つまり挙上速度を速くしたトレーニングは神経系の発達に効果があります。
低重量の高速トレも効果あり
この研究では同じ重量で挙上速度を変えていましたが、挙上速度を速めれば、重量を軽くしても神経系を発達させることができます。
なんと100kgを1秒かけて持ち上げるより、50kgを0.5秒で持ち上げる方がエネルギーが必要なのです。
高重量トレーニングを高頻度で行うとケガのリスクが非常に高まるので、間に「低重量×高速トレーニング」をはさむことで、神経系を発達させながら、適度に関節を休ませることができます。
重量はMAXの60%で、可能な限り速く拳上することを心がけて下さい。
以下がベンチプレスを例にした高速トレーニングのやり方です。
スピードベンチプレスのやり方
- MAX重量の60%で行う
- バーベルをいつも通り胸まで降ろす
- 胸の上でバーを静止させる(1秒止めるイメージ)
- 1秒未満で爆発的に拳上する
- ②~④を速度が落ちるまで続ける
- 2~3分インターバルをとり、合計2セット行う
高速トレーニングまとめ
筋力UP目的の高速トレーニング
- 高重量に近い筋活動レベルを得られる
- 高重量を高頻度で行うとケガのリスクが高まるので、関節の休養としても有効
- 重量はMAXの60%で1秒未満で拳上する
▽高速トレーニングについてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
筋力向上のトレーニングプログラム
ここまでお話しした内容をもとに筋力向上のためのトレーニングプログラムをご紹介します。
筋力向上トレーニングプログラム
- 高重量トレーニング
- 重量:MAXの80~90%
- レップ数:3~8レップス
- セット数:5セット(ウォーミングアップは別)
- インターバル:4~5分
- 高速トレーニング
- 重量:MAXの60%
- レップ数:10レップス
- セット数:3セット
- インターバル:2~3分
1日目は高重量、2日目は高速と交互に繰り返していく。
1週間に3回のトレーニングが望ましい。
筋力を強くする方法まとめ
ここまで筋力を強くする方法について解説してきました。
筋力を強くするためにはただ筋肉を鍛えるだけではダメです。
「高重量」「高頻度」「高速」の3つを意識してトレーニングに励みましょう。
まとめ
- 筋力=筋肉ではない
- 筋力を強くするためには高重量・高頻度・高速がポイント
- 高重量:MAX80~90%
- 高頻度:一回あたりのボリュームを変えずに頻度を増やす
- 高速:1秒未満で挙上する
▽最大筋力を増やすためにはクレアチンが有効です。国際スポーツ栄養学会がサプリの中で最も安全性が高いと声明を出しているので安心して摂取することができます。
▽高重量トレーニングは疲労や関節のケガを引き起こしやすいのでご注意ください。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた!
参考文献
[1]Effect of Resistance Training Frequency on Gains in Muscular Strength: A Systematic Review and Meta-Analysis.
[2]The effect of lifting speed on factors related to resistance training: A study on muscle activity, amount of repetitions performed, and time under tension during bench press in young males.