上腕三頭筋が弱い人がベンチプレスをすると、大胸筋が疲労する前に上腕三頭筋が疲労してしまうことが多々あります。
その対策としてベンチプレスの前に大胸筋だけを鍛えるダンベルフライなどのアイソレーション種目を入れる事前疲労法があります。
一見、効果的な方法のようにも思えますが、よくよく考えるとベンチプレスの使用重量が軽くなってしまうデメリットがあることが分かります。
この記事では事前疲労法は本当に対象筋を鍛えるのに有効な方法なのかをエビデンスをもとに明らかにしていこうと思います。
また記事の後半では事前疲労法の効果的な使い方について説明します。
この記事を読むと分かること
- 事前疲労法とは何か
- 事前疲労法の筋肥大効果
- 事前疲労法の効果的な使い方
事前疲労法とは
一般的に筋トレは高重量を扱えるコンパウンド種目(複関節種目)を先に行い、その後アイソレーション種目(単関節運動)で対象筋を追い込みます。
大胸筋で例えると、ベンチプレスで高重量を扱ったあとに、ダンベルフライで追い込みます。
こうすることで筋繊維に大きな負荷をかけることできるため、効率よく筋肥大できます。
事前疲労法とは上記のやり方とは真逆で、先にアイソレーション種目を行い、対象筋を疲労させたあとにコンパウンド種目を行う方法です。
一般的に言われているメリットは、対象筋を事前に疲労させることで、コンパウンド種目を行った時に対象筋以外が先に疲れてしまうことを防ぎ、対象筋を追い込むことができるという点です。
ベンチプレスで例えると、ターゲット部位は大胸筋ですが、補助的に三角筋前部と上腕三頭筋が使用されます。特に上腕三頭筋の働きが大きいため、胸への意識が弱かったり、上腕三頭筋が弱かったりすると、先に上腕三頭筋が疲弊し、大胸筋はまだ元気なのにバーベルを持ち上げることができないってことが起こります。
事前疲労法にならって、ダンベルフライ後にベンチプレスを行うと、ベンチプレスが終わったころには大胸筋がパンプしているはずです。
ポイント
通常の筋トレ方法
- コンパウンド種目 ⇒ アイソレーション種目
- 例)ベンチプレス ⇒ ダンベルフライ
事前疲労法
- アイソレーション種目 ⇒ コンパウンド種目
- 例)ダンベルフライ ⇒ ベンチプレス
事前疲労法は逆効果
事前疲労法のやりたいことは分かるのですが、どうも理屈に合わないことが多いような気がします。
そこで事前疲労法に関する文献を探してみました。
大胸筋の事前疲労法に関する文献
次のグラフは「フライ→ベンチプレス」と鍛えたグループ(事前疲労法)とベンチプレスを最初に行ったグループ(事前疲労無し)の筋活動を測定した結果です。
(画像:参考文献から筆者が改変)
この研究結果から、事前疲労の有無でベンチプレス中の大胸筋の筋活動レベルは変わらないことが分かります。
ただこの研究では、両方のグループともに同じ重量でベンチプレスを行っています。
ベンチプレスで扱える重量は「事前疲労無し>>事前疲労有り」になるので、通常のトレーニング状況下では事前疲労無しの方が大胸筋の筋活動レベルが高いことが予想されます。
筋活動レベルが高い方が当然、効率よく筋肉を疲労させることができます。また高重量の方が筋繊維の動員数も増えるので、やはり事前疲労法は逆効果だと言わざるを得ません。
下半身の事前疲労法に関する文献
事前披露法の効果が薄いのは大胸筋だけでしょうか。これを確かめるために、下半身の事前疲労法に関する文献も見ていきましょう。
次のグラフは「レッグエクステンション→スクワット」と鍛えたグループ
スクワットの前にレッグエクステンションを行うことで大腿直筋、外側広筋の筋活動レベルが減少しています。そして大臀筋は同じレベルになりました。
残念ながら、事前疲労法に有意な効果は見られません。せっかくスクワットで大きな物理的刺激を与えることができるのに、その機会を捨ててしまうようなものです。
事前疲労法の文献まとめ
大胸筋と下半身の事前疲労法による筋活動の変化を見てきましたが、対象筋に刺激がいくどころか、むしろ対象筋の筋活動を抑えてしまう残念な結果でした。
事前疲労することでコンパウンド種目を行った時に対象筋に効いている感覚がありますが、それは疲労物質がたまったことによるパンプ感で、決して筋繊維に直接働きかける物理的刺激が強まったわけではありません。
疲労物質をためる化学的刺激は筋肥大に有効とされていますが、物理的刺激による筋肥大効果には劣ります。
コンパウンド種目はあくまで高重量を扱って、筋繊維に直接大きな負荷をかける種目なので、事前疲労は行わないことをおすすめします。
事前疲労法の文献まとめ
- 大胸筋の筋活動レベルは事前疲労の有り無しで優位な差は見られない。しかし事前疲労を行うと扱える重量が下がるので、実際は筋活動レベルが下がってしまう。
- 下半身の筋活動レベルは事前疲労を行うと下がる。
- 上半身・下半身ともに事前疲労は行うべきではない
事前疲労の応用例
筋肥大には逆効果だと分かった事前疲労法ですが、上手く使えばトレーニング初心者にとって効果的なトレーニング方法になります。
対象筋に上手く効かすことができず、補助筋ばかり使ってしまうことでお悩みの方におすすめしたいのが、”補助筋”事前疲労法です。
特に筋トレを始めたばかりの方や意外と中級者にも多いのが、背中に効かすのが苦手な人です。
その多くは上腕二頭筋で引いてしまうクセがついているため、背中に刺激がいきにくくなっています。
そこで上腕二頭筋を先に疲労させておくことで、背中の種目で上腕二頭筋が関与してしまうのを抑えることができます。
たとえば、「アームカール→ベントオーバーロウ」の順番でトレーニングすることで、腕でバーベルを引き上げるのではなく、肩甲骨を動作させて僧帽筋や広背筋でバーを引き上げることができます。
この補助筋事前疲労法は、扱える重量が下がるので、筋肥大には不向きです。ですが対象筋を使って重りを受けるコツを覚えることで、それ以降のトレーニングの質がぐっと上がります。
背中を鍛えるのが苦手な人は腕の日の最後に背中種目を入れて、背中で引く意識をつけるといいでしょう。
補助筋事前疲労法
補助筋事前疲労法は「補助筋→対象筋」の順でトレーニングすることで、対象筋を使って重量を扱うコツをつかむトレーニング法
トレーニング例 ↓
- ベンチプレス:「ナローベンチプレス→ベンチプレス」
- 懸垂:「アームカール→懸垂」
事前疲労法のまとめ
通常、事前疲労法と呼ばれる「アイソレーション種目で対象筋を疲労させてから、コンパウンド種目を行う」筋トレ法は筋肥大にとって逆効果だということがエビデンスから明らかになっています。
ただもしあなたがコンパウンド種目を行っても対象筋に効かせられている感じがしないのであれば、”補助筋”事前疲労法を試してみて下さい。
補助筋を先に疲労させることで、強制的に対象筋を使わせることができるので、狙った部位の使い方を覚えることができます。
まとめ
- 事前疲労法は筋肥大に逆効果になってしまう
- 補助筋を先に疲労させる方法なら、狙った部位に効かせるコツを覚えることが可能
最後までお読み頂きありがとうございました。
それではまた!
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