「運動の前には体をよく伸ばしてストレッチをしましょう」
小学校などでは運動の前にストレッチを必ず行います。先生たちが、しきりにストレッチをしなさいというので、運動前にストレッチをするのが習慣になっている人も多いと思います。
でも最近の研究では運動前のストレッチが運動パフォーマンスを下げてしまうという悲しい事実が明らかになってきました。
この記事では筋トレ前のストレッチが悪影響を及ぼしてしまう理由と正しいウォーミングアップ方法について詳しく解説していきます。
この記事を読むと分かること
- ストレッチの種類
- 筋トレの効果を下げてしまうストレッチとその原因
- 筋トレパフォーマンスを上げるウォーミングアップ法
目次
ストレッチの種類
ストレッチは「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」の2つに分けることができます。
ストレッチの種類
- 静的ストレッチ
- 動的ストレッチ
静的ストレッチは、筋肉を伸ばした状態で数十秒間キープするストレッチ方法です。
静止した状態で行うことから静的ストレッチと呼ばれます。
一方動的ストレッチはラジオ体操などに代表される動きながら体をほぐすストレッチ方法です。
ダイナミックに関節をいろいろな方向に曲げることで、関節を温める効果も持っています。
静的ストレッチは瞬発力を低下させる
ストレッチの中でも「静的ストレッチ」は瞬発力を低下させることが分かっています。
筋トレは瞬発力を使う運動なので、筋トレ前の静的ストレッチは筋トレの質を下げ、筋肥大を邪魔してしまう可能性があります。
ここでトレーニング経験者を対象に静的ストレッチを行った場合と行わない場合でトレーニングパフォーマンスを調査した研究をご紹介します。[1]
この研究ではMAXの80%のレッグプレスを限界回数まで追い込ませて、計8セット行っています。
総レップ数と総負荷量(重量×レップ数)の結果がこちらのグラフになります。
総レップ数、総負荷量ともにストレッチなしの方が高いことが分かります。
これは静的ストレッチが瞬発力を低下させて、筋トレ中のパフォーマンスを低下させていることを表しています。
筋肥大効果も下がる
静的ストレッチによりトレーニングの質が下がれば当然筋肥大効果も下がります。
筋トレはできるだけ多くの筋繊維を疲労困憊にさせることが大切ですが、筋トレの総負荷量(ボリューム)が下がれば、その分だけ筋肉を追い込めていないことになります。
それゆえに筋肥大を促進するホルモンの分泌量が減り、筋肉が増えにくくなってしまいます。
こちらがストレッチの有無で筋トレ前後の筋肉量を比較した研究結果です。[2]
このグラフの右上が筋肉量の増加率を表しています。
明らかにストレッチをしていないグループの方が筋肉量が増えていることが分かります。
筋トレ前の静的ストレッチ
- 筋肉の瞬発力を低下させトレーニングの質を下げる
- 筋肥大を遅くする
筋トレ前は静的ストレッチを行うべきではない。
静的ストレッチが筋トレのパフォーマンスを下げる理由
ストレッチが筋トレ中のパフォーマンスを下げる理由は諸説ありますが、ここでは3つの原因について説明します。
静的ストレッチが筋トレに悪い理由
- 筋肉に血が行き渡らなくなるから
- 使用される筋繊維の本数が少なくなるから
- 筋肉が縮む力(弾力)が低下するから
筋肉が貧血状態になる
さきほどの研究結果で、静的ストレッチを行ったグループはレップ数が極端に少なっていたことから、疲労がたまりやすい状態になっていたと考えられます。
ストレッチを行うと血管も引き延ばされるため、筋肉中の血液量が少なくなり、貧血状態に陥ります。
筋トレを行うと乳酸をはじめとした疲労物質が蓄積され、筋収縮ができなくなります。
通常は血液循環で疲労物質が除去されるのですが、ストレッチにより貧血状態になっていたため疲労物質の除去が追い付かず、疲れやすくなり、レップ数が落ちたと考えられます。
モーターユニット動員数が下がる
また筋トレ前のストレッチが「モーターユニット動員数」を下げてしまうこともわかっています。
一つの運動神経に対して、複数の筋繊維がまとまって一つのモーターユニットを形成しています。これにより神経から信号をもらうと複数の筋繊維が同時に動くのです。
例えばMAX100kgの人がベンチプレスを行うとき、60kgではモーターユニットが50%しか働かないのに対し、80kgでは70%働き、100kgでは90%働くといったように、強度が上がれば上がるほどモーターユニットの動員数が増えて重りを持ち上げます。
ストレッチを行うことで副交感神経が優位になり、リラックスモードに体が入ります。
つまり運動神経の活動が抑えられてしまうのです。
運動神経の活動レベルが下がると、モーターユニット動員数も下がり、その結果筋力が低下してしまうのです。
筋肉の弾性が下がる
筋肉はゴムのように伸び縮みすることで筋力を発揮します。
しかしストレッチをすることで、筋肉がもつ弾性が下がり、筋力を低下させてしまうのです。
正しいウォーミングアップ方法
トレーニング前の正しいウォーミングアップは「やりたいトレーニング種目を軽い負荷で行うこと」です。
メインセット前にウォーミングアップセットとして軽い負荷で追い込まない程度にやるだけでいいのです。
ここで軽い負荷と言っているのは、単に軽い重量で行うのではなく、重い重量でも高回数行わなければウォーミングアップとして最適だからです。
事前に軽い負荷で運動を行うことで、神経活動が活発化したり、筋収縮をつかさどるカルシウムイオンが増えることで、瞬発力が向上することが明らかになっています。
ここでMAXの40%と80%でアップを行った時の運動速度と筋パワーを調査した研究結果を紹介します。[3]
ウォーミングアップ強度と速度の比較
ウォーミングアップ強度とパワーの比較
グラフを見ていただくとわかる通り、40%も80%も筋パワーを向上させる効果を持っています。
しかし40%の重量でアップをしたときより、80%でアップをしたときの方がより高い筋パワーを出せます。
理想的なウォーミングアップ方法
- MAX40%で10レップス
- MAX60%で5レップス
- MAX80%で1レップス
- 以降メインセット
メインセットがMAXの80%以下でも一度80%の重量を持っておくことで、できるレップ数を増やすことができます。
動的ストレッチでトレーニングの質を高めよう
筋トレ前の静的ストレッチはトレーニングの質を下げてしまうことが分かりました。
しかしトレーニング後であれば、筋肥大には関係ないので、体に柔軟性を持たせたい方はぜひトレーニング後に静的ストレッチを行ってみてください。
まとめ
- 筋トレ前の静的ストレッチは瞬発力を低下させる
- 筋トレ前の静的ストレッチは筋肥大を阻害する
- ウォーミングアップはトレーニング種目を軽い負荷で行うのが最適
トレーニングパフォーマンスの向上やケガのリスクを下げるためには体の柔軟性も大切なので、筋トレ後はしっかりと静的ストレッチを行いましょう。
▽私はフォームローラーで柔軟性向上と筋膜リリースを行っています。気持ちいいのでせひ一度使ってみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた!
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参考文献
[1]MAXIMAL STRENGTH, NUMBER OF REPETITIONS,AND TOTAL VOLUME ARE DIFFERENTLY AFFECTED BY STATIC-, BALLISTIC-, AND PROPRIOCEPTIVE NEUROMUSCULAR FACILITATION STRETCHING.
[2]Effect of the flexibility training performed immediately before resistance training on muscle hypertrophy, maximum strength and flexibility.
[3]The Effects of Postactivation Potentiation on Muscular Strength and Power.