筋トレしている人であれば、何としてでも強くなりたい「ベンチプレス」
一見簡単に見えるベンチプレスですが、重量を伸ばし続けるのはそう簡単ではありません。
停滞期が訪れた時にまず試してほしいのはパワーリフター用のトレーニングプログラムです。
ボディメイクの一環でベンチプレスをしている人がやりがちなミスは計画性がないことです。
パワーリフターが実践しているトレーニング法は週ごとに扱う重量とレップ数が決まっているので、確実に重量を伸ばしていくことができます。
また神経系の発達が遅れているがゆえにMAX重量が伸びないこともあります。
この場合は計画性のあるトレーニングプログラムと平行して今回ご紹介するスピードベンチプレスを取り入れることで短期間で重量を伸ばすことができます。
この記事を読むと分かること
- 拳上速度を速くするメリット・デメリット
- スピードベンチプレスのやり方
- プログラムの組み方
目次
拳上速度に関するエビデンス
スピードベンチプレスとは「なるべく早くバーベルを拳上するベンチプレス」のことをさします。
通常、MAXを更新するためのトレーニングは高重量を扱うため、スパスパ持ち上げることはできないと思います。
スピードベンチプレスは軽い重量を扱う分、拳上速度を最大限速めることで、神経系の発達を促すトレーニング方法です。
スピードベンチプレスの有効性を確かめるために、拳上速度を変化させた場合に筋肉の働きがどう変化するのか調べた研究を紹介します。[1]
研究内容
- 対象:13名の男性(23±4.0)
- 種目:6RMの重量で行うベンチプレス
- 方法:「ゆっくり」「普通」「速い」の異なる速度で限界まで拳上した時の筋活動を測定する
「ゆっくり」は3秒かけておろし、3秒かけて持ち上げます。
「普通」は2秒かけておろし、2秒かけて持ち上げます。
「速い」は可能な限り素早く下ろして持ち上げます。
各運動スピードにおける平均運動時間と平均レップ数は次のようになりました。
- ゆっくり:24秒、3.7レップス
- 普通:26秒、6レップス
- 速い:20秒、7.9レップス
素早い動作を行うと、レップ数は増えますが、運動時間は短い傾向にあることが分かります。
そして筋活動の結果が次のグラフになります。
縦軸が筋活動で、この数値が高いほど多くの筋繊維が活動に参加していることを表しています。
上記のグラフから、「ゆっくり」と「普通」では筋活動に違いがないことが分かります。
「速い」だけが唯一筋活動レベルが高かったです。
拳上速度とモーターユニットの関係
このメカニズムを説明する上で大事なのが「モーターユニット」です。
1本の神経と、それが支配している筋繊維のことをまとめて1つのモーターユニットと呼びます。モーターユニットの数や1本の神経が支配している筋繊維の数は部位によって異なります。
(出典:https://www.sakaimed.co.jp/knowledge/surface-electromyogram/basic/basic01/)
筋トレで軽い重量を扱う時は、全ての筋繊維が力を出すのではなく、一部のモーターユニットだけが働きます。
そして重量が上がってくると、より多くのモーターユニットが運動に参加します。
通常は重量とモーターユニットの動員数は比例関係にありますが、軽い重量でもモーターユニットをたくさん動員させることができます。
それが爆発的な動作です。
爆発的な動作は少ないモーターユニットではできず、より多くのモーターユニットが動員されます。
今回の研究で「速い」グループは爆発的動作を行ったので、モーターユニットの動員数が増え、筋活動が高かったと考えられます。
たくさんのモーターユニットが働いたということは「たくさんの神経が働いた」ことになります。
MAX重量を伸ばすためには神経が上手く筋肉を動かすことが大切です。
拳上速度の速いスピードベンチプレスは重量を伸ばすのに有効なトレーニングと言えます。
拳上速度が速いほど運動負荷が大きい
ベンチプレスのMAXを伸ばすときに意識してほしいのが「一回で使える最大エネルギー(パワー)を大きくする」ことです。
MAX重量は一回だけ持ち上げられる最大の重量です。
バーベルを降ろして挙げるという「たった一回の動作」をどれだけ強くできるかがポイントになるのです。
ベンチプレス1レップあたりに使うエネルギー量は次の計算式で表すことができます。
エネルギーの式
エネルギー=1/2 × 重量 × (速度)^2
この式を見ると、速度が2乗で効いてくるので、はやく拳上することでベンチプレス1レップあたりに使うエネルギーを大きくできることが分かります。
わかりやすくグラフ化したのが次のものになります。
このグラフでは各拳上時間におけるエネルギー量を50kgと100kgに分けて計算しています。
ここで着目してほしいのが「50kgを0.5秒で持ち上げた時」と「100kgを1秒で持ち上げた時」のエネルギーの差です。
なんと100kgを1秒で持ち上げるよりも、50kgを0.5秒で持ち上げた方が負荷が大きいのです。
ポイント
- ベンチプレスの拳上速度を速くするのは重量以上に大事
スピードベンチプレスのメリット
拳上速度を速くする最大のメリットは「MAX重量を伸ばすことができること」ですが、他にも多くのメリットがあります。
スピードベンチプレスのメリット
- 一回あたりに出せるパワーを向上させることができる
- 軽い重量でトレーニングができる
- 高頻度でトレーニングができる
- 高重量トレーニングの後でもOK
スピードベンチプレスは軽い重量でトレーニングができるので、正しいフォームと適切な重量で行えば、関節への負担を減らすことができます。
高重量のトレーニングを週に2回や3回行うと、多くの人は関節に疲労が蓄積され、痛みが走ったり、大きなけがの原因になってしまいます。
週1回の高重量トレに加えて、週1~2回のスピードベンチプレスを行うことで、高重量による関節への負荷を最小限にしつつ、MAX重量を伸ばしていくことができます。
スピードベンチプレスのデメリット
スピードベンチプレスにはデメリットもあります。
スピードベンチプレスのデメリット
- ウォーミングアップを怠るとケガのリスク大
- 筋肥大効果は薄い
- あくまで高重量トレとの併用が基本
一番を気をつけてほしいのが「スピードベンチプレス前にウォーミングアップを入念に行うこと」です。
通常では考えられないほどのスピードでベンチプレスを行うので、関節が温まっていない状態で行うと、思わぬケガに繋がってしまいます。
またトップポジションで肘を伸ばし切ってしまうと、勢い余って関節に大きなダメージが加わってしまうので、必ず肘はロックしないようにして下さい。
拳上速度を速めるとモーターユニットの動員数が増えて、筋繊維がたくさん使用されるので、筋肥大効果は高くなります。
しかしスピードベンチプレスの場合は追い込むことが目的ではないので、筋肉を疲労させるまではトレーニングを行いません。
したがって筋肥大は別のトレーニングで狙うと良いでしょう。
スピードベンチプレスのやり方
ベンチプレスのMAXを向上させるためのスピードベンチプレスは次の通りに行うと効果的です。
スピードベンチプレスのやり方
- MAX重量の60%で行う
- バーベルをいつも通り胸まで降ろす
- 胸の上でバーを静止させる(1秒止めるイメージ)
- 1秒未満で爆発的に拳上する
- ②~④を速度が落ちるまで続ける
- 2~3分インターバルをとり、合計2セット行う
ポイントは大きく3つあり、「比較的軽い重量を扱うこと」「バーを一旦胸の上で静止すること」「速度が落ちたら終了すること」です。
バーを胸の上でバウンドさせてしまうとモーターユニットが働かなくなってしまうので注意が必要です。
また拳上速度が落ちてきたら、トレーニング効果が一気に失われてしまうので、追い込むことはせずにスパッとインターバルに入るようにして下さい。
プログラムの組み方
基本的にはいつも行っている胸トレにスピードベンチを追加する形でOKです。
ただ週に2回以上胸トレを行っている場合は、関節への負担を軽減するために、「普通のベンチプレスの日」と「スピードベンチプレスの日」に分けるようにしましょう。
- 週1で鍛える人:「高重量のベンチプレス」→「スピードベンチプレス」→「その他胸トレ」
- 週2で鍛える人:「高重量のベンチプレス」→「その他胸トレ」、「スピードベンチプレス」→「その他胸トレ」
スピードベンチプレスでMAX重量を伸ばそう!
ベンチプレスの停滞期を打破してくれる「スピードベンチプレス」ついて解説してきました。
私はスピードベンチを普段から取り入れており、その甲斐あって大きな停滞期を迎えることなく、継続してベンチプレスのMAXを伸ばすことに成功しています。
今回お話しした内容を元にぜひスピードベンチプレスに挑戦してみてください。
まとめ
- スピードを速くすると筋活動が大きくなる
- スピードを速くすると一回あたりに発揮するエネルギーが大きくなる
- 普段のトレーニングに追加するだけでMAX重量を伸ばすことが可能
- ウォーミングアップは入念に行う
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた!
▽ベンチプレスをする際はケガ防止のため、必ずリストラップをしましょう。
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参考文献
[1]The effect of lifting speed on factors related to resistance training: A study on muscle activity, amount of repetitions performed, and time under tension during bench press in young males